第58回日本リウマチ学会総会・学術集会

~生物学的製剤導入時のIGRAを用いた潜伏結核評価~

座長:石ヶ坪 良明 先生 / 演者:上田 敦久 先生

ランチョンセミナー記事

【LTBI診断の重要性】

インフリキシマブがFDA認可後3年間で15万人に使用されたうち、結核を発症した患者が70人にのぼったという報告があります1)。生物学的製剤(バイオ)を使用するときには結核発症に留意する必要のあることが示されました。この論文で注目すべき点は、投与を開始してから発症までの期間平均値が12週であったことです。この短期間に結核患者に曝露されることは考えにくいため、潜伏結核(LTBI)の活性化が強く示唆されました。一方、エタネルセプトを使用した10万人のうち、わずか9人しか結核を発症しなかったことを考え合わせると、抗TNFモノクローナル抗体の使用が結核発症のリスク因子のひとつということが考えられました。

【LTBIの治療指針】

かつて、結核対策としては、活動性結核を見つけて治療することでした。しかし、これだけでは世界的な結核治癒に対して十分でないことから、2000年、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)と米国胸部疾患学会(ATS)が共同で、「Targeted Tuberculin Testing and Treatment of Latent Tuberculosis Infection」という声明2)を出し、LTBIも積極的に治療することを表明しました。LTBIは疾患であるという認識を持つ必要があります。この声明には、最近の結核感染(1年以内に感染)は、活性化しやすいことが示されています。また、HIV感染、静脈麻薬、基礎疾患としての珪肺、胸部X線異常がリスクとして挙げられています。相対危険度は、最近の結核感染で約13倍、HIV感染では約100倍です。疾患別のリスク因子としては、珪肺は非常に高く、ほかにも糖尿病、腎不全、胃摘出術、空回腸バイパス術をはじめ、腎移植、心臓移植、頭頸部癌も挙げられています。LTBIは、日本では、法律のうえでも、公費負担とする対象疾患にLTBIが加わっているように徐々に浸透してきています。日本結核病学会が2013年3月に出した「潜在性結核感染症治療指針」では、HIV/AIDS、臓器移植(免疫抑制剤使用)、珪肺、慢性腎不全による血液透析、最近の結核感染(2年以内)、胸部X線画像での繊維結節影(未治療の陳旧性結核病変)、バイオ使用、が検査を行うべき疾患として挙げられています。現在では、5歳以下に対してもツ反と併用して行うべきとされています。

【TNF阻害薬使用時における結核発症のメカニズム】

基礎検討3)~6)では、TNF阻害薬が、ケモカインの発現を抑制することで肉芽の形成を抑制する結果、肉芽を作るような感染症の発症リスクとなることが示されてきました。TNF阻害薬による結核発症のメカニズムとしては、この肉芽形成抑制のほかにもいくつか考えられています。結核菌はマクロファージに捕食された後、エンドゾーム、ファゴゾームの中で生存します。最終的にはライソゾームに導入されて殺菌されますが、結核菌はエンドゾームの成熟を抑制するリボアラビノマンナン(LAM)や分泌型酸性フォスファターゼ(SapM)といった構造蛋白を発現しています。エンドゾームの成熟は、IFNγによって促進されますが、IFNγの分泌をTNFが抑制するのです。また、補体依存的な免疫担当細胞の破壊が考えられます。抗TNFモノクローナル抗体は、免疫担当細胞表面のTNF受容体に結合して、補体依存的に破壊してしまう。特に、CD8陽性のエフェクターであるメモリT細胞はグラニュリジン、パーフォリンという細胞内の結核菌を除去するのに重要な分子を多く含みますが、これらを破壊することによって結核が発症しやすいのではないかという報告もあります。また、CD4陽性T細胞、δγT細胞、Treg細胞の活性化を抑制することによるIFNγの産生抑制も知られています。

【診療ガイドラインにおける診断アルゴリズム】

IGRAの開発とともに診断手順は変遷しています。2012年に米国リウマチ学会(ACR)が出した「RA Treatment Recommendation」では、BCG接種の既往がある場合にはIGRAが推奨されています。IGRA陽性であれば、胸部X線検査を行います。IGRA陽性かつ胸部X線陽性の場合には積極的に活動性結核の診断を試みます。喀痰検査が陰性であった場合、もしくはIGRA陽性であっても胸部X線陰性の場合には、化学療法を先行させます。IGRA陰性であれば、ただちにバイオを導入します。日本では多くの場合BCGを接種しているので、ツ反ではなくIGRAを推奨するという点では、日本の環境に合致していると言えます。ただし、IGRAの感度はDMARDやステロイド剤の使用で低下しにくいとはいえ、やはり胸部X線検査は行った方が良いと思われます。

【TNF阻害薬使用時のスクリーニング~日本リウマチ学会】

では、日本のガイドラインはどうでしょうか。2012年改訂版の関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドラインでは、スクリーニング時には問診・ツ反・胸部X線検査を必須として、必要に応じて胸部CTを行い、肺結核をはじめとする感染症の有無について総合的に判定するとされています。IFNγ遊離試験キット(QFT)は結核スクリーニングの補助的診断として有用とありましたが、2014年に変更されました。結核のスクリーニング時には問診・IGRAまたはツ反となり、徐々にIGRAの効果が認識されるにしたがい、変化しています。

【IGRA検査の歴史】

IGRAはツ反と異なり、BCGの影響を受けません。さらに、特異度は99%と非常に高く、活動性結核のみならず、LTBIの診断にも有用です。早期結核、接触者検診では、TSTよりも優れていることが示されています。T-スポットは、採血後、白血球を分離し、洗浄したのち、抗IFNγ抗体の固相されたウェルにて培養します。ウェルを洗浄後、標識抗体試薬を加え、非結合の抗体を除去後、基質試薬を加えます。IFNγを分泌したエフェクターT細胞を染色することで細胞の数としてカウントすることができます。陽性コントロールと陰性コントロールがあり、ESAT-6抗原、CFP-10抗原でどのくらいの産生細胞があるかを測定し陽性/陰性が判断されます。2010年にCDCが出した適確診断のためのIGRA使用のガイドラインでは、T-スポットの感度は90%、特異度に関しては、88%と報告されています。ただしこの時点では、結核患者が多い韓国からの報告が最も多く、懐疑的でした。そこで、結核低流行国である米国の大学生に、生まれた土地や旅行歴など、厳格な除外基準を設けて検査をしたところ、ツ反では陽性2人の一方で、T-スポットは全員陰性でした7)。日本でも同様の検査が行われ、111人中110人が陰性であり、非常に特異度が高い結果でした8)。

【臨床研究結果】

自験例では、リウマチ患者で結核を発症した3人に、ツ反とELISPOTを行ったところ、ELISPOT法、T-スポットで3人とも診断することができました。ELISPOT法はリウマチ患者に発症した結核を、ツ反よりも高感度に診断するのに役立ったという自験例もあります。活動性結核の感度をみた報告9)では、ELISPOT法では93%であり、こT-スポットでは白血球数が少なくなると感度が低下はするもののその程度は小さいことがわかっています。T-スポットでは、洗浄後、細胞数を1ウェルあたり25万個に整えて測定するため、白血球減少の影響を受けにくいと考えられます。当科において、71人のリウマチ患者に対して、ツ反とELISPOTを行った結果では、ツ反を行った50人が陰性で6人が陽性でしたが、ELISPOT陽性になった10人に対して詳細にみたところ、4人はツ反も陽性であり6人は陰性でした。この6人に共通するのは、ステロイド剤が多く使われたということです。したがって、ELISPOT法とは異なり、ツ反はステロイド剤の使用によって陰性になりやすいと考えられました。

【TNF阻害薬使用時のIGRA検査にかかわる臨床研究報告】

フランスで行われた関節リウマチ、脊椎関節症などの患者を対象にしたツ反とT-スポットの大規模比較試験では、T-スポットは免疫抑制剤の使用下で感度が落ちにくいことが示されました10)。また、リウマチ性疾患患者を対象にIGRA間の性能を比較した報告では、T-スポットの方が感度が高い傾向でした11)。ギリシャからの報告では、BCG接種歴などの要因を排除した解析において、陽性率はT-スポットで25%と比較的高い結果でした12)。 まとめになりますが、活性化のリスクの高いLTBIを疾患ととらえて治療すべきです。LTBIは50年も前の流行を反映しているため、罹患率の高い疾患と考えるべきです。本邦におけるLTBIの診断は、問診、画像診断、IGRAによって行われます。最近のIGRAの進歩は著しく、ガイドラインも頻繁にアップデートされているため、引き続き注目していく必要があります。

<References>

  • Keane J, et al. N Engl J Med. 2001; 345(15): 1098-1104.
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  • Kindler V, et al. Cell. 1989; 56(5): 731-740.
  • Flynn JL, et al. Immunity. 1995; 2(6): 561-572.
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  • Melath S, et al. Rheumatol Int. 2014; 34(1): 149-150.
  • Vassilopoulos D, et al. Clin Vaccine Immunol. 2011; 18(12): 2102-2108.

ランチョンセミナー動画

  • 経歴紹介、LTBI診断の重要性と治療指針
    [17分23秒]
  • TNF阻害薬使用時における結核発症のメカニズム
    [14分16秒]
  • 診断アルゴリズム、TNF阻害薬使用時のスクリーニング
    [6分14秒]
  • IGRA検査の歴史
    [12分59秒]
  • 臨床研究結果、TNF阻害薬使用時のIGRA検査に関わる臨床研究報告
    [8分46秒]